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 もう一つの疑問、マジシャンにとってデックのトップは、ある意味ステージと同じなので、そこを左親指で覆うことはまずありません。この状態から、リフトをしたり、デックのトップでプレイを始めることがありますので、まずありえないのです。
 ところが、ギャンブラーは、カードを配るのが仕事みたいなものですから、すぐにも配れるように親指で覆うのです。
 パスと呼ぶのはマジシャンでシフトと呼ぶのはギャンブラーと言いましたが、その解説書の最初に出てくるグリップの挿絵ないしは、写真でも、解説者がどちらの影響が色濃いのかそれでもわかるのです。
 親指だけで。


 これで、グリップが、いかに大切かお解りいただけたと思います。そして実はまだまだあるのです。
 アードナスに出会ったのは、まだ10代の頃でした。ご紹介した原書は、19歳の時買った本なのです。
 ですが、まさかそれほど有名とは知らずに買ったのです。
 なぜかと言いますと、挿絵がいっぱい書いてあったから、買ったのです。語学力がないので、とりあえず、図の意味さえわかれば何とかなると思っていたのです。
 ですが、買ったはいいがその挿絵を見て、がっかりしたのです。それは、マジシャンの常識からは、少々かけ離れていたからです。
 その頃の私では、この書の本当の真価が解らなかったのです。また、マジックの世界は、既に師の時代から70年を経っており、現象優先主義は確たる地位を築き、今や揺るぎのないものになっていたのです。
 速い話がテクニックよりも、現象が全てなのです。
 そして、単なる芸能でありながら、その科学性はほとんど他の追随を許さぬほどの進歩を遂げていたのです。
 アメリカでは、マジックを教える正規の大学の講座が出来たそうです。
 これ、面白いですね、トリックをシステム化できれば大変な事が起こるような、予感がします。
 そういう、背景にマジックはあったのです。
 ヴァーノンのビー ナチュラルと言う言葉  ”Be natural”=「自然に。」 などは、スピノザの汎神論に近く、それは、もはや哲学を超えた、神学の概念なのです。
 その中をテク一筋、カード一筋と言うのも、我ながらあきれ果てるのですが、これもしょうのないことだろうと思っているのです。
 さて、それではクラシック ボトム ディールです。これも難関です。クラシックと冠された技法群は、もうおおむね難しい。中には本当に可能かと思えるものまであったのです。
 なぜかと言いますと、この種の技法は、ほとんどカードが発明されたその瞬間には、既に出来上がっていると思われるからです。
 ある意味誰もが、考えつくようなことなので、逆にそれを実現しようと思うと、物凄く困難なものになるのです。
 そして、私もとりあえず闇雲に、一番上の写真のマジシャンズ グリップからはじめたのです。長年それで練習を積んだのですが、駄目だったのです。パスを完成の域にまで達しえた自分が、どうにも納得が出来なかったのです。
 ポーカー デモンストレーションには、やはり、ボトム ディールは花形なのです。
 ヒューガードのエキスパート カードテクニックも全く参考にならなかったのです。
 40代を過ぎても、全く納得の範囲にはなかったのです。苛立ちはつのっていました。
 しかし、これも不思議なことにある日です。はるかな過去に見た、あの挿絵をなぜか思い出したのです。
 そしてあの時は、馬鹿にして本気にしなかったその挿絵に吸い寄せられたのです。
 なぜだろう??たったそれだけの疑問でした。
 何故指を二本前に出しているのだろう。そこで鏡の前でその挿絵のように、グリップをし、かまえてみたのです。
 左の写真3番目と4番目です。外見は、まず気がつく人間はいそうにありません。もし気がつく人間がいるとすれば、レベルは私と同等であるに違いないと思ったのです。
 そして、いつものように始めたのです。かつてこれほど劇的な経験をしたことがありませんでした。その場で全てが氷解したのです。なんと、答えは既に100年も前に、実現されていたのです。
 マジシャンズ グリップでの練習経験が長かったので、おおむねの基本作業は既に体得済みだったのです。
 ですから、たちどころにその場で自分が長年夢見たその技法は自分のものになったのです。
 うれしかった。教えてもらえる人がいないのです。マジシャンはこの様なことは既に放棄してやろうとはしません。
 ですからよけいに、うれしかった。初めてtonを抱いた時のうれしさと同じくらいうれしかったのです。
 それでは、このギャンブラーズ グリップ(アードナス グリップ)の種明かしをします。
 まず、今まで何が問題かと言いますと、正面から見て、直ぐに解る点です。何がといいますと、ボトム ディールですから、何枚かは、トップより配り、そして、目的の人間には、ボトムより配るというのが、通常のやり方です。
 そこでですが、ヒューガードが解説してる通り、マジシャンズ グリップでやると、ボトムからカードを抜くと見えてしまうのです。(左5番目の写真)
 ところが、わが師の方法ならば、出てくる場所が見えないのです。(左6番目の写真)つまりデックのボトムを完全に覆って前からの視線を遮断しているのです。
 これが、まず一番大きい点です。ですから、通常にディールしている時と、なんら変わらない状態を維持できるのです。
 次に、もう一点、中指が前に出ているので、ボトムカードを引き出すときに障害になる指は、薬指と小指しかありません。
 そしてこれが大きいのですが、マジシャンズ グリップでやると、手の中で一番長い中指が、物凄く邪魔にナリ、さらに悪いことには、それが無意識に、シャッターのように開いたり閉じたりの動作を知らぬうちにやってしまうのです。もうこれが、全てを台無しにするのです。
 ところが、師のグリップでやると、小指は、既にデックにかかっているだけです。それで薬指ですが、この指が、手の中で一番鈍感なのですが、鈍感ゆえに、中指のような、余分な動きをしないで、デックのサイドに必死になってへばりついていてくれるのです。
 これが、全ての静寂を保ってくれるのです。もう薬指に感謝。そして、たったグリップを変えただけで、全てを導いてくれた、アードナスこそはわが師にふさわしいとそのとき確信を持って、そう思ったのです。